フランケンのトロッケン 1994生産年


1994年産のドイツワインをテイスティングしました。



26年前のヴィンテージなので、大丈夫か? と思い、恐る恐るコルクを抜染、ドイツワインに“あるある”で知られる短いコルクが可愛く全く損傷がないのでビックリしました。

「肝心の香りとお味は? 」26年を思わせないほど未だに果実がハツラツとして、ペトロールを思わせる鉱物の香りも心地好い! 流石にキレイに健全にカッチリと造られたドイツワインがゆえに、その凜とした豊かな酸がワインを支えて未だに崩れておらず清々しい。


醸造家として、奥行き、重なり、ハーモニーなど分厚く多重録音した混声合唱団のようなワインを追い求めてきたが、久しぶりにシンプルにまとまったワインの美しさと楽しさに出会えた気分で満足です!


ラベルを読んでみよう! ドイツワインのラベルワインの「車検証」とも言える正確すぎる情報が盛り込まれていて、世界でも類をみない。流石に正確無比なお国柄ですね!


FRNKEN TROCKEN
1994 er Silvaner KABINETT
Alter Kitzinger Klosterkeller
0.75l


Casteller Kirchberg
Qualitatswein mit Pradikat
Erzeugerabfüllung BY4000
A.P.Nr. 4000-512-97 02547
10,5% Vol


冒頭の「フランケン トロッケン」とは、フランケンと呼ばれる上級栽培地域からのワイン、トロッケンは極辛口を意味しますので、どこのブドウで、どんな味のワインが判ります。
ドイツにはトロッケンのほか、ハルプトロッケン(半辛口)、リープリッヒ(半甘口)、ズース(甘口)などと表記があり、それぞれにワイン中の糖分含有率が定められて味の見える化がキッチリとしています。


続いて、「1994 er シルヴァーナ カビネット」とは 1994年収穫のシルヴァーナ品種ブドウ、カビネットは収穫時の糖度がドイツ独自の糖度指標であるエクスレ度で最低が67-82度と決められており、ワイン醸造で砂糖を足す補糖が許されていません。


このエクスレ度は、その数字を1,000で割り1.000を足すと、そのブドウが収穫された時の糖度を表す比重(同じ量の水に対する重さの比)となります。つまり、カビネットの場合を計算すると、比重で1.067~1.082でとなり、これでは判りにくいので、これを糖分に換算すると15.6~19.6%となり、地域やブドウ品種によって異なるように幅を持たせています。また、ドイツのワイン法ではカビネットの上に、シュペトレーゼ、アウスレーゼ、ベーレンアウスレーゼ、アイスヴァイン、トロッケンベーレンアウスレーゼと甘くなるにつれて段階が分かれており、それぞれにエクスレ度の最低が細かく定まっています。


ドイツ以外の国のワイン法でも、ワインの等級でブドウの最低糖度が決められているところがありますが、糖度を比重にしたものをこのように細かく区切ったものはありません。


Alter Kitzinger Klosterkellerは生産者名 KlosterkellerのKeller(ケラー)というドイツ語で英語のCellar(セラー)というワイン蔵を表します。0.75lは750ml容量という意味。そして、次の「カステラー・キルヒベルク」はシュタイガーバルト地区にある畑のある場所、Qualitatswein mit Pradikatは直訳すると「肩書き付き上級酒」と呼ばれる等級でドイツワイン法では一番上のクラス、さらにErzeugerabfüllung BY4000 A.P.Nr. 4000-512-97 02547は、「生産者本詰めワイン」を意味し、公的検査番号のアーペーヌンマー(A.P.Nr)まで記載で品質を裏づけ保証しています。


最後にアルコール度数が10.5%となります。このカビネットは醸造の発酵工程でブドウ果汁に砂糖を加えてアルコールを稼ぐことはワイン法でNGなので、ブドウの果汁だけを発酵してアルコールを10.5%出したことになります。一般的に白ワイン醸造では1%のアルコールを出すのに1.7%の糖分が必要なので、このブドウは最低でも約18%の糖分で収穫されたことが予想できます。


まさに、ドイツのワイン法というのは、蟻の子も入り込む隙もないほど緻密で、その記載事項から、ワイン醸造の素性が手に取るように想像できるのも魅力あるところで、醸造家には溜まらない刺激をくれます。


フランス、イタリア、さては新世界のカリフォルニア、オセアニア、最近は南米や南アフリカと多くの輸入ワインが目白押しの市場で、ドイツワインは何故かヒッソリとしています。しかし、ドイツワインは、私が学生時代でロックバンドに興じていた1985年頃まで、日本において国別輸入量トップの地位にあったのです。


このスッキリと、キレイな日本酒にも通じる凛とした上品な美味しさに加え、このドイツワイン法に基づく、実直な品質表示と保証、が日本人本来の生真面目さに響いたのかもしれません。その後、“ファジー”などという中間を表す修飾語とともにワインの味も“複雑な”や“奥行き”などというボンヤリとした美味しさがもてはやされて今に到ったとも言えるのではないでしょうか?


そんなとき、久しぶりに「ここにも居るよ、生真面目なのが!」と何年もの熟成を経て育ったドイツワインに出会えたことはとても幸運でした。 皆さまも機会があれば是非トライしてみてください。


「裏ラベル説明」
フランケン地方のワイン生産地の中心部には、古いKitzinger Klosterkellerがいる、古いワイン醸造の町キッツィンゲンがあります。古いキッツィンガークロスターケラーの起源は、745年にハデロガ王女によってベネディクト会修道院の創設にまでさかのぼります。この由緒あるワイン醸造所では、スタイリッシュなワインの試飲」が今日でも提供され楽しむことができます。


このワインは、上質な料理やボリュームたっぷりの食事に理想的な相性をしめします。
ワインは常に涼しい温度で保管してください。白ワインは10°〜12°C、赤ワインは18°C前後でお楽しみください。

エノリューション

代表の川邉久之は、カリフォルニア、ナパバレーにて15年間ワイン醸造に携わり、国内ワイナリーのコンサルタント、醸造責任者を経てワイン醸造技術士として独立。日米30年以上のワイン醸造経験を生かしたワインに関わる問題解決と発展を使命として活動中。

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