ワインが引き起こす頭痛について


「ワインを飲んで頭が痛くなった」という話を聞いた事は、ありませんか?


普段の飲む量にも満たないのに頭が痛くなる場合は、そのワインを飲むのは危険な場合があるので注意が必要です。


今日は、何故頭痛が起き、それが危険なのか?について書いていきます。


普段は、大丈夫なのに特定のワインを飲んで頭が痛くなる原因は、生体アミンと呼ばれる成分が、このワイン中に高い含有量で含まれているからです。


「生体アミンって何??」と質問がでそうなので補足します。


一般的な生体アミンの主なものとしては、


  • トリプタミン
  • フェニルエチルアミン
  • プトレシン
  • カダベリン
  • ヒスタミン
  • チラミン
  • スペルミジン
  • スペルミン


があり、ワイン中では、プトレシンが最も多く、これにヒスタミン、チラミンと続きます。
この中で、ヒスタミンとチラミンは人体に及ぼす毒性が強いことがわかっており、こんな症状を引き起こします。


ヒスタミン:

じんま疹、嘔吐、下痢、腹痛、舌や顔面の腫れ、頭痛、発熱等のアレルギー反応


チラミン:

ナチュラルチーズに多く含まれ、血管収縮作用により、脳血管を収縮させ、片頭痛などを発生させる


いわゆる、身体に毒が入ってしまうのです。


その一方で、同じワインを飲んでいても頭痛にならない人もいます。それは、生体アミンを分解する力が体内に備わっている体質だからです。


ワイン消費量が日本人よりかなり多いヨーロッパ諸国の方々は、長年の歴史の中でこの生体アミンを分解する体質が日本人と比べて備わっていると考える事ができます。



ワイン醸造的視点から見た生体アミンについて

ワインでは、ワイン醸造中に汚染の原因となる、自然界由来の野生酵母やバクテリアである乳酸菌の一群が発生すると、ブドウやワイン中のアミノ酸より生体アミンをつくる傾向があります。


OIV(International Organization of Vine and Wine;国際ブドウ・ワイン機構)が、2011年に定めたガイドラインに、「ワイン中の生体アミンを低減するための醸造技法の提唱」というのがあり、ブドウ栽培、ワイン醸造で以下に列挙する点を留意してワイン中の生体アミンを低減する留意点が提示され、加盟する世界のワイン生産者に呼び掛けています。


一例)

  • ブドウ栽培する土壌への窒素肥料過多
  • カビなどで冒された不健全な原料ブドウの使用
  • ブドウのpH(水素イオン濃度)が高いなかで発生する、特定の酵母群による発酵で増加する生体アミン含有量
  • マロラクティック発酵中での特定のバクテリアで増加する生体アミン含有量


現在のワイン醸造方法では、原料ブドウを処理後に自然界由来の微生物(野生酵母やバクテリア)の生育を抑える効果のある、二酸化イオウ(亜硫酸塩などで、酸化防止剤として表記)を少量添加することで、生体アミンをつくる野生酵母やバクテリアは活性を失わせます。


また、アルコール発酵や、それに続くマロラクティック発酵(乳酸菌がブドウ由来のリンゴ酸を乳酸に換える発酵)は、生体アミンをつくらない選抜されたワイン用酵母やワイン用乳酸菌により行なわれるのが主流です。そのため、頭痛や動悸など健康に影響する生体アミンはワイン中には殆どありません。


その一方で、最近はワイン醸造に使用される二酸化イオウが、頭痛を引き起こす原因であると信じられ、二酸化イオウを添加しないワイン醸造方法でつくられた無添加ワインや昔ながらの自然微生物による発酵でつくられたナチュラルワインなどが安全と市場で人気を博しているのも確かです。


アルコール発酵やマロラクティック発酵などに使われる“発酵”と言う言葉は「人に有用な微生物が、そのはたらきで物質から有用な成分をつくること」という意味に使われます。このとき、その微生物や物質からつくられる成分が有用でなく、人に危害を及ぼす「欠陥や毒素」であれば、“発酵”ではなく“腐敗”という言葉になります。


それほど、発生する微生物とつくられる成分によって“発酵”か“腐敗”かは、表裏一体です。


残念ながら、生体アミンの含有量を事前に知る事はできませんが、飲んですぐに頭が痛いという人がいたらそのワインは、危害を及ぼす可能性があり、危険なのでその人には合わないという事だけは、知っておいてほしいと思います。


美味しく、楽しいワインを飲むためのミニ知識でした。


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エノリューション

代表の川邉久之は、カリフォルニア、ナパバレーにて15年間ワイン醸造に携わり、国内ワイナリーのコンサルタント、醸造責任者を経てワイン醸造技術士として独立。日米30年以上のワイン醸造経験を生かしたワインに関わる問題解決と発展を使命として活動中。

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