教えることは学ぶこと、北海道編(Ⅰ)


2020年8月21日『北海道ワインアカデミー』にて『サニテーションの役割と微生物について』テーマで講演をさせていただく機会を頂きました。


ワイン醸造における汚染微生物への対策を、本年6月から義務化された『HACCPの考えを取り入れた衛生管理』と『HACCPに基づく衛生管理』の観点で、体系的に効率良く健全なワインを造るノウハウをお伝えする内容です。


この『北海道ワインアカデミー』は、北海道庁と北海道大学が中心となり、北海道で盛んになる新規ワイナリーやヴィニヤードの起業者を支援するプログラムで、ワイン醸造とブドウ栽培を中心に技術的な教育を行うプログラムです。


北海道では、新規ワイナリーの設立が非常に熱くなっており、その背景には、二つの要因があると考えられます。


一つ目は、商業ベースとなるヴィニヤードを開墾できる土地が一番多くあることです。日本列島は面積ではカリフォルニア州の9割弱くらいです。そうした中で、北海道単体だけでカリフォルニアの五分の一をも占めるの、その大きさだけでも日本離れしていることがわかります。


もう一つの背景は、小規模のワイナリーを設立しやすくする果実酒特区に認定された自治体が長野県に次いで多いのが北海道だからです。


酒税法ではワイナリーを新設するには『最低製造数量』として定められたリッター数のワインを製造販売しなくてはならず、それは6,000㍑(750ml壜で8,000本)と定められています。しかしながら、果実酒特区に認定された自治体においてワイナリーを設立する場合は、その最低製造数量が三分の一に引下げられ、少ない投資で小さなワイナリーから起業できるチャンスが与えられます。これは、平成14年に施行された構造改革特別区域法で定められ、さらに平成23年の総合特別区域法で認定が緩和され小さなワイナリーが数多く誕生しました。最近では年間30場以上の新規ワイナリーが全国で起業しています。


長年にわたり、酒類製造業はプロのみが参入できるという高い障壁が存在していましたが、その障壁を撤去し、ヤル気のあるアマチュアでも参入できるようにしたのが果実酒特区の制定と言えるでしょう。それは、例えばかつての大変高価で高嶺の華だった自動車やコンピューターは操作も難しく、一部の限られた層のみが所有できたのが、購入しやすくなるとともに、誰もが操作できるように進化した事に似ています。


その進化を健全なものにする為に必要なのが正しいインストラクションや取扱説明書であり、北海道ワインアカデミーのような参加ハードルが低い教育システムであり、現在、全国でこの様な自治体によるワイナリー起業者にむけた教育環境が整いつつあります。


午後の部では、学長の田辺由美先生のテイスティング口座に同席させて頂き、ワインのテクニカルシートの書き方、また醸造的な欠陥を出さないようにするポイントを紹介しました。

学長の田辺由美先生


年間の日本ワイン生産量が2,603,000㍑の北海道は、5,189,000㍑の山梨、3,950,000㍑の長野に次いで全国3位を誇ります。 北海道は、人口が約550万人、世帯数が約240万世帯、人口密度では全国最下位となります。このことから、道民一人換算で500ml弱、1世帯換算で1㍑強のワインを年間飲んだら、北海道で生産されるワインは道内で消費することが可能という計算が成り立ちます。


夏の後半に差し掛かった当日の札幌は肌寒い朝でしたが、セミナーの会場は学びの精神に充ち満ちた受講者の熱気で暑さを感じるようでした。


素晴らしい観光名所と美味しい食材を誇る北海道には、ワインが消費される可能性が未曾有に埋まっていると感じます。新しいワイン生産者を目指す受講者のエナジーと北海道のもつ美味しさと楽しさのポテンシャルから、新しい日本ワイン文化の在り方の方向性が見えたようでワクワクした一日でした。そうした気持ちを胸に、講義が終了した後に札幌を後にして池田町に向かいました。


明日以降に、北海道編Part2をご紹介していきます。本日もお読み頂き誠にありがとうございました。

エノリューション

代表の川邉久之は、カリフォルニア、ナパバレーにて15年間ワイン醸造に携わり、国内ワイナリーのコンサルタント、醸造責任者を経てワイン醸造技術士として独立。日米30年以上のワイン醸造経験を生かしたワインに関わる問題解決と発展を使命として活動中。

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